院政期社会の言語構造を探る

絵巻物の時空表現
L'expression de l'espace et du temps dans les peintures en rouleau

5) 似絵の時代へ
Vers la periode de la peinture realiste
 

 人物の容貌を忠実に再現することを標榜する似絵が社会に迎え入れられ、またいわゆる「鎌倉彫刻」の興隆にみられる写実に傾く時代の趨勢のなかで、絵巻物は、しだいに本来の表現の生命力を失っていった。新たな題材(仏教の祖師伝や寺社の縁起あるいは武士の活躍など)をとりいれることで鎌倉時代以降も絵巻物は制作され続けるが、その表現は単に類型として前代の表現をなぞるか、写実に傾くかするようになり、室町時代にはいると使命を終える(註23)。
 しかしこうしたなかで、絵巻物制作に秘められた後白河院の政治的意図、すなわち文化の主宰者はあくまでも院(朝廷)であるという主張を鋭くかぎつけていた人物がいた。源頼朝である。
 「古今著聞集」は、頼朝が後白河院と対面した際、院が蓮華王院の宝蔵の絵を取り出してみせようとしたのに対し、「君の後秘蔵候御物に、いかでか頼朝が眼をあて候べき」(「古今著聞集」巻第11)と体よく固辞して一見もしなかったというエピソードを伝えている。このエピソードが事実かどうか検証するのは難しい。しかし頼朝は、自己が院とは違う美的価値観をもっていること、それゆえ、その世界のなかでは院を主と仰ぐつもりがないことを世人に示しえていたのである(註24)。

(この項終わり)

 平成15年2月25日

  

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