ベートーヴェンのピアノ・ソナタCDを聴くーーその1(初期ソナタ)
| 手もとにあるCDでまとめたベートーヴェンのピアノ・ソナタの演奏についてのメモです。いろいろなピアニストの録音を幅広く聴いているわけではありませんので、かなり偏りもあるとおもいますが、なにかのご参考になれば幸いです。なおこのページでは、第1番から第11番まで、ベートーヴェンが20代に作曲したいわゆる初期のピアノ・ソナタをとりあげています(中期以降は現在準備中)。 |
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| 曲名 | 作曲年代、特徴 | 演奏者 | 録音 | レーベル | 演奏の特徴 | 評価 |
| 第1番 ヘ短調 Op.2-1 | 1795年頃作曲。 作品2に属する他の二曲と合わせ、当時ベートーヴェンが師事していたハイドンに捧げられた。 アレグロ、アダージョ、アレグレット(メヌエット)、プレスティッシモの速度記号をもつ4楽章構成。第一楽章の主題はモーツァルト風の曲想。 |
バックハウス | 1963 | Decca | バックハウス(1884年〜1969年)はモノラルとステレオで、二度ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を録音したが(ただし『ハンマークラヴィア』はステレオ未収録に終わった)、70歳代から亡くなる直前まで録音し続けたステレオ版の全集は、各曲のあり方を過不足なく伝えるというより、伝えるべき要素を絞り込んで演奏している感じで、強弱、テンポの変化にはあまり拘泥していない。どの曲も規範的な演奏ではあるが、印象としてはかなり淡泊だ。また第一楽章主題提示部の反復は原則行っていない(このため、演奏時間は他のピアニストより短め)。使用ピアノはおそらくベヒシュタイン。 第1番は、音、テンポ設定、楽章ごとの構成などに細かく配慮した、バランスのよい楷書体の演奏。とはいえけして無味乾燥ではなく、第一楽章集結部などでは自然な盛り上がりをみせる。 |
○ |
| R・ゼルキン | 1970 | CBS | ルドルフ・ゼルキン(1903年〜91年)はベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を録音しておらず、弾きこなした好きな曲だけを選んで録音したのだろう。CDで聴くことができる彼のベートーヴェンのピアノ・ソナタ演奏は、いずれも曲に対する愛情と細かい読みが同居した好演である。 第1番は、第一楽章冒頭の主題提示からして一音一音かみしめるような味わいがある浪漫的解釈。しかし過度に劇的になることはなく、曲全体のまとめ方には、青春のドラマといった節度感がある。 |
○ | ||
| リヒテル | 1976 | EMI | リヒテル(1915年〜97年)はベートーヴェンの曲のなかでも自分に合った好みの曲しか演奏・録音しなかった。このためたとえば、『月光』ソナタの録音はない。演奏時期、場所、レーベルもさまざまで、録音にはかなりむらがある。おしなべていえば、強弱のコントラスが強く、部分的なテンポの変化も大きい。またフォルテでは時として音が割れる。いわゆる「主観的」ベートーヴェン演奏の代表者といえよう。 第1番は楽章ごとに明確な性格設定を施し四部制の激しいドラマを演出。第一楽章ではたたきつけるようで鋭角的な音とアクセントの強調が著しい。一転、二、三楽章は揺るやかなテンポ。そして第四楽章でまた激しく加速する。 |
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| グルダ | 1954 | Decca | グルダ(1930年〜2000年)は、1950年代にデッカに1960年代にアマデオにベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を録音。デッカ版の全集は録音技術の移行期にあたるためモノラル録音とステレオ録音が混在(ピアノはおそらくベーゼンドルファー)。 第1番は、グルダ独特の弾んだ丸い音による演奏。ベートーヴェンがモーツァルトの後継者であることを感じさせる。この演が録音されたのは、ちょうどフルトヴェングラーが亡くなる年であり、そうした時代性を考えると、この演奏の「軽さ」はきわめて貴重。 |
○ | ||
| 〃 | 1968 | Amadeo | 曲の基本設計はデッカの旧録音と同じだが(タイミング的には新録音の方が若干早い)、アマデオへの新録音はある意味で旧録音よりういうしく、音がさらに弾んでいる。旧録音からの十数年のあいだに、自分のやりたいことにたいする迷いがなくなって、なにか吹っ切れた感じ。第二楽章では、単に軽いだけでなく、透明なある深さを獲得している。 | ◎ | ||
| ポリーニ | 2006 | DG | 1975年の後期の曲からはじまったポリーニ(1942年〜 )のベートーヴェンのピアノ・ソナタの録音も、全曲録音まであと一歩に近づいた。テクニシャンの彼のことだから、全曲を一気に録音しようとすればそれも不可能ではなかっただろうが、録音には30年以上の長い時間をかけている。 第1番は、非常に透明感の高い演奏。第二楽章はベートーヴェンの最初のピアノ・ソナタというより、晩年のソナタに通ずる格調の高さを感じさせる。 |
○ | ||
| 第2番 イ長調 Op.2-2 | 1795年頃作曲。 4楽章構成。 第一楽章のソナタ形式も前作より充実。また第三楽章は前作のメヌエットのかわりにスケルツォをあてた。 |
バックハウス | 1968 | Decca | 少し早めのテンポによる端正な演奏。第三楽章ではアクセントを強調。重厚な音色の演奏だが、表現自体はあっさりしている。 | |
| ギレリス | 1984 | DG | ギレリス(1916年〜85年)は、晩年にベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音をめざしたが、1番、9番、12番、16番、22番、24番、32番の七曲を未収録のまま急逝した。録音された曲の完成度の高さからいって、全集を録音できなかったこと、なかでも32番を録音できなかったことは惜しまれる。 亡くなる前年に録音した第2番は、この曲のリズミカルな愛らしさ、抒情性を意識した演奏でみずみずしい。第四楽章も歯切れがよい。ただし曲全体のテンポ設定はややゆったりしている。 |
◎ | ||
| グルダ | 1954 | Decca | 曲の構成への目配りがよい。全体としては軽快で流れるような演奏だが、第二楽章のラルゴはしっとりしている。 | ○ | ||
| 〃 | 1968 | Amadeo | デッカへの旧録音より余裕のある弾き方。 | ○ | ||
| ポリーニ | 2006 | DG | 軽いタッチで透明感のある演奏だが、洗練されすぎているかもしれない。 | |||
| 第3番 ハ長調 Op.2-3 | 1795年頃作曲。 4楽章構成。作品2の三曲のなかでは最大規模の曲。 |
バックハウス | 1969 | Decca | 作品2の三曲のなかではこの曲がもっともバックハウスの個性にあった感じで、過度に表情をつけてはいないが、骨太で、明確な輪郭による自然体の演奏。楽章ごとの性格分けもうまくいってバランスが良い。 | ◎ |
| リヒテル | 1975 | Brilliant | モスクワでのライブ演奏。第二楽章はロマン性あふれ好調だが、全体はかなり武張った感じ。響きもやや金属的。 | |||
| ギレリス | 1981 | DG | リズミカルでアクセントも明確。ただしやや表情を付けすぎの気がする。第二楽章も静かで美しいが少し考えすぎではないか。前半が重いため、終楽章は平坦な感じ。 | |||
| グルダ | 1954 | Decca | さらっと弾いて曲全体がバランスよくまとまっているが、演奏の核がみえない。もう少しなにかひっかかるものが欲しい。この曲に関しては打鍵が少し弱い? | |||
| 〃 | 1968 | Amadeo | 旧録音より非常に歯切れがよく見違えるように生き生きした演奏。第二楽章以下もやや早めのテンポでしまった感じ。 | ◎ | ||
| ポリーニ | 2006 | DG | 早めのテンポの演奏。透明感に奥行きがプラスされ好調。終楽章もしゃれている。 | ◎ | ||
| 第4番 変ホ長調 Op.7 | 1796年作曲。 4楽章構成。 前年に作曲した作品2の三曲の世界をさらに拡大している。第三楽章はメヌエットともスケルツォとも記されておらず、新たな方向が模索されている。 |
バックハウス | 1966 | Decca | バランスの良い規範的演奏。骨太ではあるのだが、アクセントや強弱はかなり明確。また第一楽章や第二楽章には細かいテンポの揺れがみられる。ただし曲全体としては、やや平板でもう少し細かい性格付けが欲しい。 | |
| リヒテル | 1975 | Brilliant | 第3番と同時のモスクワでの録音。リヒテルの演奏としては非常に軽快。第二楽章も丁寧に弾いているが、沈み込んだ感じはしない。全体として明るいトーンにみちている。 | ○ | ||
| ギレリス | 1984 | DG | 細かいところまで神経のいきとどいた演奏。緩徐楽章の美しさも充分。終楽章はリズミカルで歯切れがよい。 | ◎ | ||
| ベネデッティ=ミケランジェリ | 1971 | DG | ベネデッティ=ミケランジェリ(1920年〜95年)は、ベートーヴェンでは限られた曲しか演奏していない。ベートーヴェン演奏者としてはやや異質。 第4番の演奏は、もってまわったような感じがつきまとう。もっとストレートに音と対峙した方がよかったのでは…。第二楽章は音色はさほど暗くはないのだが、表現としてやや沈みすぎ。 |
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| グルダ | 1955 | Decca | 丁寧でバランスのよい演奏なのだが、なにか芯のようなものが不足している。このため第三楽章、第四楽章も意外にさえない。 | |||
| 〃 | 1968 | Amadeo | 冒頭からかなりテンションが高く、ちょっとエクセントリックな感じのする演奏。第二楽章から雰囲気がガラっと変わるが、終楽章もややあらっぽい。 | |||
| 第5番 ハ短調 Op.10-1 | 1796〜7年頃作曲。 3楽章構成のなかでこれまでのピアノ・ソナタの試みを凝縮。なかでも第二楽章アダージョは幻想曲風で充実。 |
バックハウス | 1963 | Decca | 整った演奏だが、曲想からすると少し線が太すぎるかも…。第二楽章もややそっけない(この楽章だけとればグルダよりもテンポが早くさらっとしている)。ただし細かいニュアンスの表出はうまい。 | |
| ギレリス | 1985 | DG | とぎすまされた緊張感のみなぎる演奏。第二楽章の瞑想は深く美しい。 | ◎ | ||
| グルダ | 1955 | Decca | 各楽章の性格がうまく弾き分けられている。小規模な曲なので、この曲を録音した当時のグルダの演奏傾向ともマッチしていて無理がない。 | ○ | ||
| 〃 | 1968 | Amadeo | 旧録音を大幅にテンポ・アップ。ドライな基調のなかにみずみずしい感性をも反映させた好演。 | ◎ | ||
| ポリーニ | 2003 | DG | 曲の細部まで神経のいきとどいた整然とした演奏。 | ○ | ||
| 第6番 ヘ長調 Op.10-2 | 1796〜7年頃作曲。 3楽章構成の小規模な曲。緩徐楽章がなく、また終楽章はロンドではなくフーガ風のソナタ形式をとるなど実験的。 |
バックハウス | 1963 | Decca | 第一楽章はゆったりとはじまり、バックハウスとしてはめずらしく細かいサービス精神たっぷりの演奏。第二楽章も表情豊か。終楽章がちょっとあらい。 | ○ |
| R・ゼルキン | 1970 | CBS | 弾んだ丸い音の演奏で、この曲への慈しみが感じられる。第一楽章では丁寧に後半部も反復される(このため演奏時間はバックハウスの倍かかる)が、リズミカルで冗長な感じはしない。全体が明るくのびやか。 | ○ | ||
| ギレリス | 1973 | DG | 軽快で好調な演奏だが、曲想を考えるとやや大柄な気がしないでもない。終楽章は絶好調。 | ○ | ||
| グルダ | 1955 | Decca | グルダにしてはキメの荒い、ちょっと引きずるような演奏。 | |||
| 〃 | 1968 | Amadeo | 旧録音よりテンポ・アップして快調。終楽章は特にさえている。 | ◎ | ||
| ポリーニ | 2003 | DG | 曲が見えすぎて見えてないという感じのする演奏。もっと単純に考えた方が良かったのではないか。透明な音色もこの曲ではマイナス。ハイカラ過ぎ? | |||
| 第7番 ニ長調 Op.10-3 | 1796〜7年頃作曲。 前の2曲とは異なる4楽章構成の曲で、ふたたび形式化と規模拡大へ向かう。 オペラ・アリア風の第二楽章ラルゴ・エ・メストは、ソナタ形式による充実した曲。メヌエット、ロンドがこれに続く。 |
バックハウス | 1963 | Decca | どちらかといえばぶっきらぼうで、過度な表情をつけず、あっさり弾きながした感じの演奏。第二楽章も非常に淡泊。第四楽章はゆったり弾いて、自然体でさりげない。 | |
| ホロヴィッツ | 1959 | RCA | ホロヴィッツ(1904年〜89年)は、本質的にはベートーヴェンの楽曲と合わないタイプの演奏家だとおもう。解釈というより、音があまりにも洗練され過ぎており、ベートーヴェンの曲にはもう少し太く抵抗感のある音が欲しい。RCAとCBSに有名曲のみ録音。 第7番は、ホロヴィッツらしい硬質な音の演奏だが、響きが過度に細くなっておらず演奏として成功している。なかでも第二楽章は非常に丁寧に弾いて曲のもつデリケートさ、繊細な悲劇性をうまくだしており、ベッリーニのアリアのパラフレーズを聴いているような感じをおこさせる。 |
○ | ||
| リヒテル | 1976 | EMI | あまり考え込まず、リヒテルとしては演出もほどほどの演奏で個人的には好感がもてる。第二楽章以下も非常に健康的な感じ。 | |||
| ギレリス | 1980 | DG | 速めのテンポの第一楽章と緩やかな第二楽章のコントラストが抜群。 | ◎ | ||
| グルダ | 1955 | Decca | 丁寧に弾こうとしているが、結果的に平板でややもたれる。ロンドに入ってようやく調子がでてくる。 | |||
| 〃 | 1968 | Amadeo | バックハウスの武骨な淡泊さとはまったく異なるが、しっとりした情緒とは無縁の演奏。曲全体を大幅にテンポアップして、旧録音より非常に歯切れ良くなった。表現としての完成度は高い。第二楽章は曲想をうまくとらえ起伏もあるが、どこかしらドライ。第三楽章は全体表現のなかでは遅めのテンポ設定で、結果的に旧録音とほぼ同じテンポ。終楽章に入って、また大幅にテンポアップ。 | ○ | ||
| ポリーニ | 2003 | DG | 透明な明るい音色で曲全体をカッチリ弾いているが、この曲ではそれがプラスになっていないような気がする。ロンドは軽快。 | ○ | ||
| 第8番 ハ短調 Op.13 「悲愴」 |
1798年頃作曲。 3楽章構成。ベートーヴェンの初期を代表する充実した曲。第一楽章の冒頭で第一主題を提示する前に、ベートーヴェンのピアノ・ソナタとしてははじめて、ゆるやかな導入部をもつ。導音の使い方もみごと。 |
バックハウス | 1954 | Decca | 包容力の大きい演奏で、古い録音ながら聴きごたえあり。筋肉質の演奏なのだが力んだ感じがしないところが見事。ただ録音のせいか、音の立ち上がりはあまりよくない。 | ◎ |
| 〃 | 1954 | Decca | 上掲のスタジオ録音と同じ月に行われたバックハウス戦後最初のNYカーネギー・ホールでのライブ。曲全体の基本設計はスタジオ録音と同じで大きな変化はないが、推進力が大きく張りのある演奏。第二楽章の自然な見得も好ましい。終楽章は力まかせでなく洗練されている。 | ○ | ||
| 〃 | 1958 | Decca | 第一楽章は主題に応じて微妙な味付けがみられる。全体として安定しているが、モノラル録音に比較すると表現が枯れすぎ。推進力はともかくとして、もう少し立体感が欲しい。 | |||
| E・フィッシャー | 1952 | EMI | エトヴィン・フィッシャー(1886年〜1960年)のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ録音は残念ながら数曲しか残されていない。 「悲愴」の演奏は瞑想的という感じで同世代のバックハウスとも雰囲気がまったく異なる。序奏をゆったり弾きはじめるのはほとんどのピアニストと同じだが、その後半の第五小節以降も万を持したかのようにゆっくりと重々しく弾いているのは独自のめずらしい表現。しかしその後主題提示部に入ると次第に加速するので、第一楽章全体のテンポの揺れは大きい。ただそれが表現として完成されており、説得力は高い。第二、第三楽章はわりとあっさりしている。 |
◎ | ||
| 〃 | 1952 | Archipel | 上掲のEMIスタジオ録音の一カ月後にミュンヘンで行われたライブ。 基本的な曲の捉え方はスタジオ録音と同じだが、さらに彫りの深い演奏で、圧倒される。 |
◎ | ||
| アラウ | 1963 | Ph | アラウ(1903年〜91年)は、フィリップスに二度ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を録音(ただし、二度目の全集は「ハンマークラヴィア」未収録)。 円熟期に録音した「悲愴」は、押しつけがましくはないが表現意欲旺盛。第一楽章の推進力、第二楽章の思索性も充分。風格あり。 |
◎ | ||
| R・ゼルキン | 1962 | CBS | 大げさな身振りを交えない、小振りだがすっきりした演奏。 | ○ | ||
| リヒテル | 1956 | IMD | 西側デビュー前のモスクワでの録音。第一楽章は孟スピード、第二楽章は超スロー、第三楽章は緩急自在。全体的に演出意図旺盛。ただしこの録音からテンポ設定以外の細かいニュアンスを聴きとるは難しい。 | |||
| ギレリス | 1980 | DG | 少しも力んだところのない自然な演奏なのに迫力満点。第一楽章の早いパッセージはきわめて爽快で、対照的に終結部の沈黙は雄弁。 | ◎ | ||
| グルダ | 1957 | Decca | 第一楽章はあたかも「走り去る哀しみ」を聴くよう。これも一つのいきかたかもしれないが、少し奇をてらいすぎたのではないか。このため第二楽章アダージョの曲想が生きてこない。第三楽章はグルダ本来のペース。 | |||
| 〃 | 1968 | Amadeo | 手垢のつかないすっきりしたベートーヴェン演奏。第一楽章もすぐれた表現だが、第二楽章はさらによい。全体としてはいつものとおり早くて軽い演奏だが、グルダの新録音としては珍しく全体のテンポ設定が旧録音より遅く、演奏に深みが出ている。 | ◎ | ||
| グールド | 1966 | CBS | グールド(1932年〜82年)は、CBSに22曲のベートーヴェン・ピアノ・ソナタを録音。 『悲愴』も異端児グールドらしい個性的な演奏だが、個人的には「ああ、そうですか」という感じで納得できない。 第一楽章の序奏はかなり思わせぶりだが、主題提示部に入ると一転して孟スピードの無機的な演奏にかわり、序奏がコントラストを際立たせるためだけにあるように感じられるのは、演奏としてマイナスだろう。またドライな演奏に徹するのであれば、いっそのこと楽譜の指示どおり主題提示部を反復した方が首尾一貫しているとおもうが、反復は省略される。このあたり、方法的にかなり不徹底なような気がする。なかでは、ピアノの響きを殺してクラヴィアの音を再現したような第三楽章が一理あるようにおもえる。 |
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| バレンボイム | 1966 | EMI | バレンボイム(1942年〜 )は、EMIとDGで二度、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を録音している。 EMIに録音した『悲愴』は、ピアノのもつふくよかな響き、ピアニッシモの美しさを意識した色彩感豊かな演奏。彫りの深さも兼ね備えている。この演奏にケレンを感じる人もいるかもしれないが、それをいうならば、ベートーヴェンの若書きである『悲愴』という曲自体がケレンではないだろうか? |
○ | ||
| ポリーニ | 2003 | DG | 第一楽章は透明感と力強さを兼ね備えており見事。これと比較すると第二楽章はやや軽く、第一楽章の前進エネルギーをしずめそこねた感じ。第三楽章はシャープで好調。 | ◎ | ||
| 第9番 ホ長調 Op.14-1 | 1799年頃作曲。 3楽章構成の小規模な曲。緩徐楽章をもたず、第二楽章はアレグレットとのみ記されている。 |
バックハウス | 1968 | Decca | 第一楽章、第二楽章は力まずあっさり弾いて、それが曲想ともマッチしている。逆に第三楽章は余裕で曲にたっぷり表情をつけており、それがこの曲をおもしろくしている。 | ○ |
| リヒテル | 1963 | Ph | 小規模な曲というこの曲のイメージをくつがえすのがリヒテルの狙いだろうか?けして重苦しい演奏ではないとおもうが、この曲のイメージからはかけ離れている。たとえば第二楽章は、アンダンテの葬送音楽のよう。これはこれで一つの表現としてありうるのかもしれないが、第三楽章の仕上がりがラフでマイナス。心がこもった演奏というより、頭でっかちな演奏にきこえてしまう。(おそらくパリで行われたライブ録音。) | |||
| グルダ | 1957 | Decca | 曲のポイントをつかみかねている感じ。細部にメリハリがなくもたれる。 | |||
| 〃 | 1968 | Amadeo | 基本のテンポ設定f旧録音とさほど変わらないが、新録音は旧録音より歯切が良い。ただし全体の印象はいまいち。 | |||
| 第10番 ト長調 Op.14-2 | 1799年頃作曲。 3楽章構成の小規模な曲。曲想は第9番よりものびやか。第二楽章は変奏曲。第三楽章はスケルツォ。 |
バックハウス | 1968 | Decca | 第一楽章は早めのテンポ設定で、バックハウスにしてはめずらしく部分的なルバートもみせるが、どちらかといえばぶっきらぼう。第二楽章以下はテンポを落としてじっくり弾いているが、やや平坦で、もう少しメリハリが欲しい。 | |
| ギレリス | 1985 | DG | 曲の性格からいって圧倒的な印象はないが、透明感のあるピアニズムが、曲の規模、雰囲気に合っている。第二楽章はアンダンテの速度記号を重視してゆっくり弾いているが、このために各変奏の対比の妙が弱くなっている。 | ○ | ||
| グルダ | 1957 | Decca | ゆったり丁寧に弾いている。変奏曲、スケルツォも楽しげ。 | ○ | ||
| 〃 | 1968 | Amadeo | 曲の基本設定は旧録音とほとんど同じで、グルダらしくしゃれている。テンポは新録音の方が若干はやいが、極端には違わない。全体の仕上がりは新録音の方が洗練されていてできがいい。変奏曲の愉悦感は格別。終楽章も好調。 | ◎ | ||
| 第11番 変ロ長調 Op.22 | 1799年から1800年頃作曲。 4楽章構成の本格的な曲。これまでのさまざまな実験をふまえて、ベートーヴェンのピアノ・ソナタも形式的にはこの曲でいちおうの完成をみたということができる。 ただし、形式は整っているが、演奏効果のあげにくい地味な曲。 |
バックハウス | 1968 | Decca | ツボを心得ているという感じで、演奏効果があげにくいこの曲の聴かせ方がうまい。また晩年のバックハウスにしては珍しく、音の強弱を比較的はっきりさせている。 | ◎ |
| リヒテル | 1963 | Ph | リヒテルとしては非常にすっきりした演奏。第二楽章アダージョが特によい。ただし録音のせいか第一楽章は左手(低音)が強すぎて音のバランスが悪い。また第四楽章にはところどころ不要な力みが感じられる。 | ○ | ||
| ギレリス | 1985 | DG | 丁寧に弾いているのだが、仕上がりが地味。 | |||
| グルダ | 1957 | Decca | 各楽章の性格をうまく弾き分けている。細部もデリケート。 | ○ | ||
| 〃 | 1968 | Amadeo | 旧録音とほぼ同じ解釈だが、第三楽章を除き少しテンポ・アップして全体の表情を引き締めた。やや堅苦しい演奏で、グルダとしてもかなり健闘はしているのだが、目覚ましい演奏効果をあげるにはいたっていない。第四楽章にはいって、ようやく本領の一端を発揮という感じ。 | ○ |