2004年1月 パリ滞在記:その2
| 1月17日(土) | |
| 疲れているのだが、この夜もよく眠れない。午前2時ごろにいったん目がさめるのは前夜と同じ。それからもう一度寝て、午前6時にスーパーの音で目をさまされる。四谷シモンと荒木さんもよく眠れなかったとみえて、今朝はふたりともなかなか起き出さない。私は一人ホテルを抜け出して11世紀に創建されたサンジェルマン・デ・プレ教会前のカフェ・ドゥ・マゴに朝食をとりにいく。 と、ここまではよかったのだが、いざドゥ・マゴに入るとカフェ・オ・レはともかく、クロワッサンの注文の仕方がよくわからない。やむなくカフェ・オ・レをがぶ飲みする。ちなみにここのカフェ・オ・レは4.5ユーロ。日本の水準から考えたらかなり高いが、そのかわり3杯優に飲める。しかしカフェ・オ・レだけでは腹の足しにならないので30分ほどでドゥ・マゴを出て、ホテル前のパン屋PAULに入りクロワッサンなどを買い込む。 買い込んだパンを部屋でかじってから、ホテルのロビーへ。ロビー横にパソコンが置いてあり自由に使えるというのでそれを試してみることにする。しかしフランスのパソコンは、文字の配列はともかく、消去などのいろいろな機能も省略されたフランス語表記なので、これがよくわからない。苦心の結果、ようやく最初の書き込み(ローマ字)に成功する。 そうこうするうち四谷シモンと荒木さんが起き出してきて午前中をどう過ごそうかというので、オルセー美術館訪問を提案する。オルセー美術館へはホテル前のセーヌ通りをまっすぐ進んで、セーヌ河岸で左に曲がればいい。徒歩15分ほどの距離だ。まだ開館直後の早い時間なので待たずにスムーズに入れる。 |
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![]() 『草上の昼食』(マネ)の横でしばし休息 |
とはいうものの広い美術館ゆえ、入ってから目的のコーナーを探すのが大変だ。みんながあっちだこっちだというのを無視して、オルセーは3階からみなくてはだめだと、ぐんぐん上の階に先導していく。上に行くんならエスカレーターかエレベーターがあるはずだと四谷シモンと荒木さんは主張するが、広くてそれがどこにあるかがまずわからないのだ。ああだこうだと言いながら、3階(最上階)へ。いったんたどり着くと、そのコレクションのすごさに四谷シモンは吸い付けられたようにみている。いっぽう私は、絵画をみる目がないので、有名な画家や有名な作品の前で、ああそうか、これかこれかと確認作業に終始する。 |
| ただしわれわれは展示コースの逆から見はじめたようで、順を追って古い作品が出てくる。しかしそんな私がみても、セーヌ側のテラスにそった展示の量と質には圧倒される。明るい採光も展示にマッチしている。個人的にここで一番おもしろかったのは、アンリ・ファンタン=ラトゥールのグループ肖像画。われわれは最上階の最後にこれをみたのだが、ほんらいのコースでは入り口で最初にこれをみることになる。ファンタン=ラトゥールの作品は3枚展示してあったが、いずれも有名人を描いたものなので、これは誰だ、こっちは誰だと「文学的」に楽しめるのだ。 3階の次は2階にまわって装飾芸術のコーナーのジャポニズム(19世紀末〜20世紀はじめにヨーロッパで流行したモダニズムの一環としての日本趣味)コーナーをみたいのだが、順路を逆から回ったため2階への行き方がわからない。階段を利用したところ、椅子などの家具の展示をとおって一気に地上階にでてしまった。降りたところのガラスの床の下にパリの街の模型が展示されていて、メカニズムが好きな荒木さんはこれをけっこう楽しんでいる。 振り出しにもどってあらためて2階へ。 のぼってすぐのコーナーは家具・宝飾品、自然主義・象徴主義絵画と続く(これも逆路)が、見だせばきりがないので私はパス。四谷シモンはこの辺も丁寧にみている。ようやくジャポニズムのコーナーにたどりついたと思ったら展示量が少なく、ここはちょっと期待はずれ。 オルセー美術館に対する私の期待はこのコーナーでほぼつきているのだが、四谷シモンはせっかく来たからまだ回ろうといって、今度は彫刻のコーナーに進んでいく。みんなそれにつられてついて行ったかっこうだが、さすがにこのコーナーも作品が充実している。なかでもプールデルの「弓を射るヘラクレス」の質感には感激。 こうして2時間弱でオルセー美術館の主要展示をみ、いったんホテルに戻ることにする。帰りはコースを変えて、パリ第5大学そばのユニヴェルシテ(大学)通りを通る。この通りにもいろいろな店舗がならんでいるが、そこで四谷シモンが石を売っているおもしろいショップを発見。石といっても、この店の商品は切断した面にそれこそ印象派の絵画のようなおもしろい模様が浮かび出るいわば天然の石絵だ。四谷シモンいわく、石の絵のことは澁澤龍彦さんが紹介していたのを読んだことがあるが実物をみるのははじめてだという。もちろん荒木さんと私もはじめてで、店の中にははいらず、ショー・ウィンドーからみんなこのふしぎな絵にみいる。 ホテルに戻るとエコール・ド・シモンの生徒だった桂さんが迎えに来てくれ、今度は桂さんの車でアル・サン・ピエール美術館に向かう。 美術館についたのは午後1時ごろだが、まず驚いたことにマルティーヌが松葉杖をついている。階段で足をくじいたのだという。展覧会の開会間近というので気張ってはいるが、とてもつらそうだ。マルティーヌのアクシデントのせいか、2階の床はまだ完全には片づいていない。また、昨日は1種類しかなかったポスターが2種類に増え、そのうち1種類は四谷シモンの少女の人形をつかっている。ただしこの人形は今回の展示作品には入っていない。なにか狐につままれたようなふしぎな感じだが、マルティーヌいわく、これは、この人形が四谷シモンを代表するものと考えて選んだのではなく、いかにも人形という感じがするので、人形展全体を代表するにふさわしいと考えて選んだのだという。へんな理屈だが、ここはまあすなおに喜んでおくしかないだろう。これからこのポスターを、地下鉄の駅をはじめ、パリのあちこちに張る予定という。 さてお腹がすいていたわれわれは、ともかく近くのレストランに食事に行くことにする。 レストラン探しのために美術館を出、あらためて周辺を見回すと、美術館の界隈は生地屋街で、四谷シモンには刺激的な店が多い。また生地屋街が切れたところからモンマルトルの土産物屋がはじまり、こちらもちょっとおもしろい。一同、腹をすかしてはいったのは、カジュアルな雰囲気のイタリアン・レストラン。めいめいパスタやピザとサラダをとる。量は多いが、味は今一だ。 |
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![]() みんなで慎重に開梱 |
美術館に戻ったところに大月さんも到着し、いよいよ開梱作業開始。 まずコーナー全体のイメージがつかめるようにと、マルティーヌが四谷シモンの作品と同じコーナーに並べるハンス・ベルメール、サラ・ムーン、シンディ・シャーマン、の写真やデッサンをみせてくれる。活動領域が広いベルメールの作品は、写真やデッサンが10点ほど。いっぽうサラ・ムーンは写真が3点、シンディ・シャーマンは写真が2点で、この二人の作品は人形を直接の主題としたものが選ばれている。これは彼女たちのなかでもいい作品だ、これらの作品と人形をいっしょに展示すれば、いい展覧会になりそうだと喜ぶシモン。人形の入った箱をあけるのにもよい意味の緊張感がただよう。 |
| 四谷シモンの作品の多くはガラス・ケースに入っており、今回の輸送で一番気をもんだのはそのガラスが割れないかということだが、幸いなことに、ケースも人形も無事届いている。「ピグマリオニスム・ナルシシスム」をはじめ4体の人形をいろいろ並べてみて、結局センター奥には右から「解剖学の少年」「ピグマリオニスム・ナルシシスム」「機械仕掛の少女1」とケースに入った人形を3体ならべ、そこから左に少し離してコンセプトが少し異なる「木枠で出来た少女1」を置くことにする。「木枠で出来た少女1」の左側の壁があくが、ここはハンス・ベルメールの写真やデッサンのコーナーにしてもらえばよい。 2〜3時間かかっただろうか。みんな人形が少しでもよくみえるようにと夢中で動きまわった。 |
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![]() 手すりをうまくつかったアマーテ作品の展示 |
余裕がでてきたところで、会場全体をみまわす。まだあちこちのコーナーが作業中で、全体がどんな風に仕上がるのかはさっぱりみえてこない。隣のブース(フランシス・マルシャルの作品)や会場出口に向かう外壁と通路の手すりを使った展示(ミグェル・アマーテの作品)だけ設置は終わっているようだが、これをみるとヨーロッパの作品は相当エネルギッシュ。これを見た四谷シモンは、「なんて失礼な作品!」を連発する。この失礼という言葉は、四谷シモン自身や日本の人形作家の発想には全然ない作品によって、いわば裏をかかれたことへの最高の賛辞だ。これらは日本の人形からすれば完成度もへちまもないような作品ともいえるが、「人形ということでこんなとんでもないことを考えてる作家がいるとは。これらの作品が見れたというだけでも、パリに来て良かった」というのが四谷シモンの率直な感想。 |
| ここまでくればあとは自分たちでやるので、明日はゆっくり休んで、次はオープニング・パーティーがある19日の夜に来てくれれば大丈夫とマルティーヌ。 みんな自分がパリにいることも忘れて展示に夢中になっていたのだが、一歩美術館を出ると、目の前の薄闇のなかにモンマルトルの象徴サクレ・クール寺院がふわっと浮かんでいて、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなってしまいそうな幻想的な雰囲気だ。 すっかりいい気分になった四谷シモンは、これからどこに行こうかという大月さんの質問に、まよわず「ムフタール街へ」とこたえる。ベルメールがかつて住んでいた街だ。パリを北から南へ縦断してムフタール街を散策し、たまたま見つけたカフェでのどをしめらせてから、最後は大月さん推薦のモンパルナスの気さくなレストランへ。ここでめいめい思い思いの料理を食べ、すっかり満腹してホテルに戻った。 |
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2004年1月 パリ滞在記:その1 (1月15日&16日)
2004年1月 パリ滞在記:その3 (1月18日&19日)
2004年1月 パリ滞在記:その4 (1月20日)
2004年1月 パリ滞在記:その5 (1月21日&22日)
2004年1月 パリ滞在記:その6 (1月23日&24日)
アル・サン・ピエール美術館の人形展(「四谷シモンーー人形愛」サイト内)
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