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ヨーロッパ覇権以前――もうひとつの世界システム ジャネット・L・アブー=ルゴド著 Before European Hegemony: 本書はオックスフォード大学出版局から1989年に出版されたBefore European Hegemony, The World System A.D.1250−1350の翻訳である。モンゴルがユーラシア大陸に大帝国を築きあげ、東西の交流がさまざまな側面で活発化した1250年―1350年という百年間を叙述対象として選び出し、この時代の旧世界海陸の交易状況を世界的視野で叙述しながら、ヨーロッパ中心史観に意義をとなえている。著者のアブー=ルゴドは、カイロ、ラバトなど第三世界の都市学から出発し、アメリカ合衆国の都市問題とも取り組んでいる社会学者、歴史学者で、E・サイードの「オリエンタリズム」(1978年)は、彼女とイブラーヒーム・アブー=ルゴドに捧げられている。 本書のなかでアブー=ルゴドは、この時代の旧世界の交易圏を、@西ヨーロッパ、A東地中海、B中央アジア内陸部、Cペルシア湾沿岸、Dエジプトと紅海沿岸、Eアラビア海沿岸、Fベンガル湾沿岸、G東アジア――の8ブロックとしてとらえ、それぞれのブロックの繁栄の状況、繁栄にいたるプロセスと衰退のプロセスを叙述し、この時代が続くヨーロッパの覇権時代の前史ではなかったことを明らかにしようとしている。 東アジア関係では、次の時代に元にかわった明の消極外交、海洋交易からの撤退が、われわれには興味深いところだが、本書の叙述からは、結局、明が海洋交易から撤退した真因ははっきりしない。ただ、明(中国)にしても、インドにしても、国力・技術があり、地理的環境が整っていても(特にインド)、文化・経済が自足的で、もともと交易に求めるものが少なかったために、海外進出に積極的ではなかったと指摘されている。 「このシステムの「乗っ取り」は、決して旧来のルールに従って行われたのではなかったことを知っておかなければならない。16世紀初め、ポルトガルの侵略を受けた旧世界システムは、ほとんど抵抗を示さなかった。なぜなのか?部分的には、すでに組織が衰えていたので(おそらく一時的ではあるが)抵抗することができなかった。しかし、たぶん旧システムは複数の交易パートナーとの共存に完全に慣れ親しんでいたので、長期の交易より短期の略奪に興味をもつ侵略者には無防備であったのだろう」(下巻178〜9ページ) したがって、ヨーロッパの覇権というのは技術力・経済力の問題ではなく、場合によってはヨーロッパ以外の国がこの地域に覇権を確立することもありえたということになるだろう。
ちなみに、注のなかで次のような文章を紹介しているところからも、アブー=ルゴドの意図の一部が読みとれよう。 「黒人作家ジャン・ケアウは、その論文”Origins of Racism in the Americas"を次のような書き出しで始めて、私たちにショックを与えた。「サンサルヴァドルのアラワク族ルカヨスが自分たちの浜辺でコロンブスとその配下の水夫たちを発見してから482年の間、新世界における人種差別の起源についてほとんど研究がなされてこなかったのは異常なことである」」(上巻原注14ページ) 参考までに、以下に全体の目次をあげておく。 【序論】 (2002・7・27・up) |
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