椎葉神楽
宮崎県東臼杵郡椎葉村
獄之枝尾神楽保存会 2002年3月10日 於:国立劇場小劇場

 宮崎県椎葉村に伝わる伝統芸能「椎葉神楽」をみた。この神楽、椎葉村・獄之枝尾集落で年末に一晩かけて行われるものから重要な演目を選び出し、3月9日、10日の2日にわけて演じたもの。今回はつごうにより10日の後半部分のみみる。

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 まずは今回の演目全体を紹介しておこう(2日分)。
 【9日】
 注縄立(しめたて)
 宿借(やどかり)
 注縄誉(しめほめ)
 注縄引鬼神(しめひききじん)
 一神楽(いちかぐら)
 紋神楽(もんのかぐら)

 【10日】
 稲荷神楽(いなりかぐら)
 芝入(しばいれ)
 芝問答(しばのもんどう)
 星指し(ほしさし)
 芝引(しばひき)
 入増(いりまし)
 綱切・綱主(つなきり・つなぬし)
 御笠舞(みかさまい)
 神送り(かみおくり)
注連縄をはって空間(舞台)を神聖化したところに神が来臨し、神前で神楽を舞い、神を送るという一連の行事が、順を追って、いちおうまんべんなく紹介されたことになる。

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 さて、2日目の最初に演じられた「稲荷神楽」は、全体のなかでも「最も難しく、美しい」とされるいわばクライマックスの演目。4人の男たちが鈴、扇、幣などを使って優雅に舞う。この最中、突然若衆たちが綱状の柴をもって舞台に乱入し、ゆったりとした時間の流れが中断されてしまうのがおもしろい(「芝入」)。

 そののち、神主と荒神の2人のあいだでえんえんと問答が行われるが、問答といっても荒神は神主の言葉を繰り返すだけというところに、呪術性のようなものを感じる。 その後「星指し」「芝引」という静動両極のような舞が舞われ、「入増」から納めの舞に移る。 今回演じられたのは、全体的にゆったりとした舞が多かったが、そうした<無時間的>ともいえるリズムに身をまかせているうちにおとずれた終曲の「神送り」は、素朴なメロディーに合わせて東西南北と中央をことほぎながら、盆にのせた米を空と大地に撒き散らすなかに、おごそかな雰囲気がただよう。 椎葉神楽も、長いあいだ伝承されるうちに吉田神道(唯一神道)の影響を強く受けているというが、それでも神仏習合的な古体や「梁塵秘抄」「猿楽」などの言葉や仕草が部分的に残されているのは貴重だ。

 なお、今回演じられたのは椎葉村・獄之枝尾集落の神楽であるが、椎葉村では4地区、27の集落に少しずつ異なる独自の神楽が残されているという。

【註記】
 当徘徊録を書くにあたっては、日本芸術文化振興会発行の「椎葉神楽」プログラムを参照させていただきました。

(2002・7・27・up)

 

徘徊録 La Nomadologie