ピエール・ベール
Pierre BAYLE (1647年−1706年)

著作紹介 Oeuvre

彗星雑考(1682年)
Pensees diverses sur la comete

 ベールの名を一躍高からしめた初期の代表作で、主題は一見、彗星を災厄の前兆と見る俗説への批判にあるかのようだが、こうした迷信批判自体はさして新味のあるものではなく、著者もその点に最大の力を注いだわけではない。ベールの意図は明らかに、この問題を手がかりとして多方面にわたる種々の考察を自在に展開することにあり、中でもとりわけ、彗星が災厄の前兆ならば神は偶像崇拝によって無神論を打破するために奇蹟を行ったことになる、という指摘を出発点として、主に道徳的見地から異教の偶像崇拝者と無神論者を相互に比較した長い部分は、著者が最も力をこめたものだった。無神論者も世俗的観点からは有徳たりうる、無神論者の社会もそれなりに存立しうる、等々の主張がその論議の中で導き出され、そこから「彗星雑考」は18世紀の読者たちにより、宗教の支配を脱した「自律的道徳」の宣言的な書、非宗教的社会の到来を予告する予言的著作とみなされ、その世紀に少なくない「有徳な無神論者」像を形象させる根拠ともなった。
 しかし、ベール自身がこうした「脱宗教」の方向や、まして無神論の積極的な顕揚を目指していたとは思えない。
 そこで論じられるのは当時のフランス改革派が直面する理論的・実践的な諸問題で、その意味から、この書は「雑考」という独特の形を取った一種のカルヴァン派論争書にほかならなかった。
(以上は、「フランス哲学・思想事典」<弘文堂、1999年>から野沢協氏が執筆したピエール・ベールの項のなかの「彗星雑考」の紹介をさらに抜粋して掲載しています。)

ピエール・ベールの生涯と著作 La Vie et des Oeuvres de Pierre Bayle