| フランス近世史理解の便に鑑み、アンシャン・レジーム期フランスの国政において重要な役職である尚書局長(大法官)について、以下、フランソワ・オリヴィエ−マルタン「フランス法制史概説 Histoire
du droit francaise des origines a la Revolution」(邦訳・塙浩、創文社、1986年)の詳細な解説を引用・紹介する。同書の引用に際しては、引用者の判断により、原語を示すルビを大幅に削除した他、文章にも若干の削除個所があり、正確な表現は邦訳で直接確認していただきたい。 「首席補弼卿<プランシパル・ミニストゥル>を別にして考えれば、尚書局長<シャンスリエ>は、その諸職分の古さの故をもって、内閣の第一の人物である。彼の公的称号は、フランス大尚書局長<グラン・シャンスリエ・ドゥ・フラーンス>である。(中略)彼の選任は、王の完全に自由な決定に服する。王冠の高官である尚書局長は、法上罷免不可能で、彼の頭と共にしかその顕職を失うことはない。しかし、もし彼が王の気に入ることがなく成れば、王は彼から諸玉璽を取り戻しうる(中略)。この場合には、王は、自身で王国の諸玉璽を保管して、それを彼の指図のもとに押捺させる。ルイ14世およびルイ15世は数週間それに専心したことがある。実際上は王は一名の「尚璽官(国璽尚書)」[=玉璽保管役]を任命する。これは常に罷免可能の一親任官であって、尚書局長に代るものである。老令ではあるが未だ不興を蒙った訳ではない尚書局長と尚璽官との間には、時として職能分割が為されている。 王の高官ではなくて、王冠の高官たる尚書局長は、国家の永続性を代表する。彼は主権者の死亡に際しても喪に服しない。彼は、甚だ重要なかつ栄誉的諸利益を収めるのである。彼の主たる職分は常に、王が発行する王状に玉璽を押捺することである。王国の諸玉璽は一小箱に錠をかけてしまい込まれており、尚書局長はその鍵を常に「首に吊って」携行する。押印は「フランス玉璽押捺審査会議」の期間中に行われる。これは、尚書局長が王宮掌請官衆と共に開く真実の判定所であって、王宮掌請官衆は4分の1ずつがここでその仕事に従事する。押印のために提出される王状の各々につき一名の掌請官によって報告が為される。もし王状に同意が為されるときは、一属吏である封蝋役がそれに押印するが、この役は、無分別なことをしないようにするために、読むことを知らぬ者でなければならない。しかし、王状は却けられることも有りうる。もし王が王状の発行を司令しているときは、尚書局長は、それを却けるべく彼に決めさせるに到った法上および事実上の諸理由を説明しに王のもとに赴く。彼は彼の職務就任時の宣誓によってそれを約しているのである。王は自身の意思を固守して、彼にその王状に押印することを命じうる。この場合には彼は従うことを要する。(中略) 玉璽に関するこの本質的特権に、司法行為に関する諸王令の準備が結び付く。この準備は通常は尚書局長の管轄に属する。(中略)同じく、玉璽の保管には、書籍出版(リブレリ)の取締が結合する。これは、18世紀後半には顕著な重要性を持つけれども、既にそれより古いものである。どんな書籍もフランスでは王の許可なしには公刊されえない。この許可は公開王状によって与えられるものであって、この王状は同時に、書籍の著者および発行者の諸権利をその侵害から守るものである。その王状は、殊にパリ大学の教師衆の中から充員されはするが公式には書籍出版の取締と関係する専門家たる検閲役衆の意見に基いてしか発行されない。 尚書局長は更に、内、財務および施策国務顧問会議の主宰権を持つ。顧問会議の、諸会議のおよび諸事務局の構成を決めるのは正に彼である。総て王の聴許をもってではあるが、それらに事案を配分しそして報告者衆を指名するのは彼である。君主不在に際して諸会議を主宰するのは彼である。顧問会議裁決の正本には総て、報告者の署名と並んで彼の署名が為される。尚書局長は最後に、司法の総監督たるの地位を持つ。彼は王と最高裁判所<クール・スヴラン>との間の当然の仲介役である。彼はこれらの法院<クール>の傍らに置かれている王の代訴官長に指図を与え、また、王に仕えることを要すると同時に自身の同僚の屡々激しい過敏さを処理することを要する法院長衆と絶えず交信する。王が王のどれかの法院の一つの親裁座に着きに行くとき、王の発する数語の後で自身の主君の意図するところを知らせるのは尚書局長である。彼は、既述のように全国三身分会議(三部会)の傍らでは、これが存在する限りの話ではあるが、同じ役割を果す。わが国の昔の著者衆は、尚書局長は「君主の口」であると述べる。彼は老練な法律家であらねばならないと同時に雄弁でなくてはならなかった。」(フランソワ・オリヴィエ−マルタン「フランス法制史概説」;邦訳・塙浩、創文社、1986年、679〜81ページ) |