「忍夜恋曲者(将門)」詞章
Texte de <Yo ni utou Soma no Furugosho>

(HP扉から続く)恋は曲者世の人の、迷ひの淵瀬きのどくの、山より落つる流れの身、うき音の琴のそれならで、妻呼び交はす雁がねの、その玉章をかくばかり、色に手だれの傾城も、こがるる人に逢見ての、後の思ひにくらぶ山、忍ぶ涙の春雨を、傘に凌いで来たりける。

光圀「はて心得ぬ。将門山の古御所に、妖怪変化住処を求め、人倫を悩ます由。頼信公の仰せを受けし光圀が、暫しまどろむそのうちに、見馴れぬ座敷のこの体は、まさしく変化の所為なるか」

滝夜叉「申し、申し、光圀様」

光圀「さてこそ変化、ござんなれ」

いで正体をと立ち寄る光圀、女はあわてて押し止め

滝夜叉「ああ、申し。様子云はねばお前の疑ひ。私ゃ都の島原で、如月と云ふ傾城でござんすわいなあ」

光圀「やあ、心得難きその一言。波涛を隔てしこの国へ、傾城遊女の身をもって来り住むべき謂なし。よし又都の遊女にせよ、ついに見もせぬその方が、何故我を光圀と」

滝夜叉「さあ、お尋ねなくともお前の胸、晴らすは過ぎし春の頃」

光圀「何と」

滝夜叉「ああ、申し」

嵯峨や御室の花盛り、浮気な蝶も色かせぐ、廓の者に連れられて、外珍しき嵐山、それ覚えてか君様の、袴も春の朧染め、朧気ならぬ殿振りを、見初めてそめて恥ずかしの森の下露思いは胸に、光圀様と云ふことは、その折知って明け暮れに、女子の念が今日の今、届いて嬉しいこの逢ふ瀬、疑いはらして下さんせ、やいのやいのと取り縋り、赤らむ顔の袖屏風。

(中略)

怒れる面色忽ちに、柳眉逆立ちつく息は、炎となって焔々たる、妖術魔術の業通に、流石の勇者もたじたじたじ。梢木の葉のさらさらさら。魔風と共に光圀が、襟髪掴んで宙宇の争い。怪し恐ろし世にうたふ、時を絵本の忠義伝、歌舞伎に残す物語。拙き筆に...。

(宝田寿助作「世善知相馬旧殿」より大詰「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)」)

画像は、右から二代目市川九蔵の如月実ハ滝夜叉姫、十二代目市村羽左衛門の光圀、初代坂東玉三郎の善知妻綿木

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滝夜叉姫 Takiyasha-hime